遺産分割審判とは何か、調停との違いなどについて解説
相続が発生した際、どのように遺産を分けるのかを話し合いによって決めます。しかし、話し合いがうまくまとまらない場合、遺産分割調停や遺産分割審判という手続きを行うこともあります。
今回は遺産分割審判について解説します。調停との違いや有利に進めるためのポイントなども解説しますので、参考にしていただけますと幸いです。
目次
遺産分割審判とは|話し合いではなく裁判
遺産分割審判とは、遺産分割の協議が話し合いでまとまらず遺産分割調停を行なっても調停が成立しなかった場合に行なう裁判の一種です。
相続人が一人であればその人が相続、あるいは相続しない(相続放棄)選択をします。遺言書があれば、基本的に遺言書にしたがって遺産分けを行ないます。相続人が複数で遺言書がない場合は、遺産をどのように分けるかを相続人全員で話し合う『遺産分割協議』を行います。
ところが、相続人が複数いる場合に遺産分割の話し合いがまとまらないことがあります。形式的に人数割をして平等にみえても、人それぞれに思惑があります。介護が必要な父親を亡くなる直前まで面倒をみていた人は自分は他の兄弟姉妹よりもたくさんもらえるはずだと思うでしょうし、自分は今経済的に苦しいので少しでも多く遺産が欲しいという事情もあるでしょう。
このように相続人間で話し合いがまとまらない時に遺産の分割を進めるための手段が裁判所での『遺産分割調停』及び『遺産分割審判』です。遺産分割は家族間だけの問題ですので通常の裁判と異なり非公開で行われます。
また、当事者が主張・立証しないことまで、家庭裁判所調査官が行なった調査結果を利用するなど裁判所が能動的・裁量的に関わる点も通常の裁判と異なるところです。
遺産分割審判と調停で異なる3つのポイント
遺産分割調停と審判とのおもな相違点を表にしました。
調停 | 審判 |
裁判所での話し合い | 裁判 |
裁判官と調停委員が仲裁 | 裁判官 |
当事者が同席することはない | 同席する |
相続人全員の同意が必要 | 同意の有無によらず、裁判官の審判に従う |
調停委員がおらず厳格な雰囲気になる
調停の場合は民間人の調停委員がいて穏やかな雰囲気の中で自分の主張を述べることもできますが、審判の場合は調停と異なり調停委員がいないため裁判官との話になるため厳格な雰囲気になり、委縮してしまい充分な主張ができなくなるおそれがあります。
一般の人にすれば裁判官と普段接する機会はありませんし、裁判だという意識があるので、どうしても緊張してしまいます。
当事者全員が集まる
調停の場合は調停の場に相手方が立ち会わないので、自分の思いを率直にいうことができますが、審判の場合は相手方が同席するため遠慮や興奮から思っていることが満足がいくほど伝えられないことがあります。
紛争の当事者であることから、気まずい雰囲気があり、感情が先行してしまいがちです。
裁判官の決定に従うことになる
調停は相続人全員が遺産分割の方法についての合意を形成する作業です。そのため、調停では原則的に相続人全員の合意がないと成立しません。
しかし、審判は裁判官の決定により分割方法が指定されたら、たとえ反対している相続人がいても裁判所の決定である審判に従うことが強制されます。
調停に代わる審判(家事事件手続法第284条)
他の相続人は合意しているのに一人だけ同意せず、しかもその同意しない理由に合理性がない場合や、分割内容に賛成しているものの都合によって調停に参加できない人がいる場合にも、調停を成立させないことが、かえって不合理な場合もあります。
このような場合に、『調停に代わる審判』という形で事実的に終了させる運用がされることもあります。
遺産分割審判の流れ|4STEP
調停が不調に終わったときは、審判の手続きが開始されます。
審判は次のような流れになります。
1.調停が不成立となり審判に移行される
調停が成立しなかった場合は改めて審判の申し立てをしなくても、そのまま自動的に審判に移行することになります。
遺産分割と同じ家事事件である離婚の場合は、調停が成立しなければ訴訟を起こすことができますが、遺産分割の場合は訴訟を起こすことはできず、審判によって紛争を解決することになります。
2.審判期日(裁判)が行われる
審判期日には相続人全員が出席し、裁判官によって争点の整理が行われ、事実の調査が必要かどうかを判断し、相続人それぞれの主張を聞いて紛争を解決するために最良の方法を模索していきます。
事実の調査は当事者に対する審問、家庭裁判所調査官の調査などによって行われます。
家庭裁判所からは相続人に対して主張を裏付ける資料、主張を根拠づける資料、相手の主張に対する回答などの書面の提出を求められます。
調停では当事者が同席することはありませんが、審判では他の相続人の主張に対して反論する機会を設ける必要があるため当事者が同席することになります。
審判が開始すれば審判期日が指定され、期日に当事者が裁判所に出頭します。
審判期日は通常1回では終わらず、複数回設けられるのが通常で、1ヵ月~1ヵ月半の間隔をもって指定されます。
訴訟の場合、判決前に当事者間で合意があれば和解で解決することがあるのと同様に、審判の場合も相続人全員の合意が形成できた場合には調停が成立したものとして調停調書が作成され終了することになります。
3.審判官が審判を下す
遺産分割審判が適法な申立だと認められると遺産分割の方法を指定した審判が下されます。
遺産分割協議や調停の場合は必ずしも法定相続分通りでなくても成立することと比べて、遺産分割審判では法定相続分に従わなければならないといった制約があります。
そのような制約がある中でも、遺産分割調停や審判で行われてきた相続人たちの主張を考慮して、裁判官はかなりの裁量を持って誰にどのような財産を相続させるのが最良なのかを考えて決定を下します。
不動産を売却しなければ法定相続分で分けることができない場合には、不動産の売却が命じられる審判が下されることもあります。
この場合には相続人が売却を望んでいなくても審判にしたがって売却しなければなりません。
審判は判決と同じ効力をもつので強制力があります。
納得がいかない場合は不服申し立てをすることもできますが、不服申し立てをしない限りは審判の内容に従わなければなりません。
4.相続の手続きを行う
審判が確定したら審判の内容にしたがって被相続人の財産を相続人が受け取れるようになります。
自分が相続することに審判された預貯金の払い出しや、不動産の名義書換などの相続の手続きが、審判書とその確定証明書があれば他の相続人の協力がなくてもできるのです。
下された審判にどうしても納得がいかない場合は、不服の申立ができます。
不服がある場合の手続きは後述します。
遺産分割審判の期間|1年以上かかるケースが約7割
次の表は平成26年の司法統計からの資料です。
遺産分割審判(認容)は約7割が1年以上かかっています。
期日が1回で終わらず複数回であること、期日ごとの間隔が1月~1月半ごとに定められることから長期間にわたることになります。
審判の結果に納得いかない場合は即時抗告(不服申し立て)が可能
告示された審判に納得がいかない場合は裁判所に対して即時抗告の方法で不服の申立を行ないます。
即時抗告とは訴訟での控訴や上告と同じように、審判に対して不服申立を行なう方式です。
審理は高等裁判所でされますが、申立は家庭裁判所に対して行ないます。
審判の告示を受けた日の翌日から2週間以内に申立をしなければ審判は確定し、以後不服の申立ができなくなります。
審判の無効や取消を主張することもできなくなりますので、『再審』請求をするほかないですが、再審はほとんど認められません。
遺産分割審判を有利に進めるための2つのポイント
遺産分割審判を有利に進めるために、押さえておきたいポイントがあります。
証拠の収集
遺産分割審判は調停のような話し合いではなく、裁判の一種です。
裁判である以上、客観的に説得できる説明(立証)が必要です。
たとえば、不動産の価値を争うときは路線価や基準地価あるいは不動産鑑定士の鑑定結果などを根拠に立証し、自分がどれだけ亡くなった人の財産を維持するために貢献したのかを立証するためには証言をしてくれる人や出納帳などの資料が必要になります。
弁護士に依頼する|遺産分割調停から依頼するのがベスト
遺産分割審判は裁判の一種であるため、法的な手続きであり弁護士に依頼しなければ難しい点もあります。
相手方に弁護士がついていればなおさらです。
弁護士に依頼すれば、紛争の状況をわかりやすく説明してもらえ、今後の方針についてのアドバイスをもらえたり、考えられるリスクを教えてもらえたりするメリットがあります。
例えば、亡くなった人が高価な絵画をもっていたとして、絵画は誰の所有かはそれだけではわかりません。
相続人のうちの誰かが勝手にその絵画を売ってしまえば、長い間調停や審判を行なってきて結果がでても何も得るものがなかったという事態がおこるおそれがあります。
そのようなおそれがあるときは、『審判前の保全処分』を行ない、相続財産を保全することができますが、このようなことは一般の人には難しいことです。
紛争の途中から弁護士に依頼すると、今まで主張してきたことがかえって自分に不利であることがわかることもあります。
このような場合は今までの主張と矛盾することになり非常に不利になってしまいます。
弁護士に依頼するのはなるべく早い段階から依頼しておくことが、よい結果を招きます。
少なくとも遺産分割調停の段階から依頼するのがよい選択です。
遺産分割審判にかかる費用相場|相続財産の5%前後+成果報酬
遺産分割審判を弁護士に依頼するにはどのくらいの費用が必要か心配です。
依頼する手続きの種類や遺産の内容や金額、また依頼する弁護士によっても変わります。
相続財産の5%前後に成果報酬を加えた金額になります。
予想される費用を整理しておきましょう。
- 相談料
遺産相続に関してトラブルがあったときには、弁護士にまず相談をします。
30分5,500円くらいが相場ですが、無料で相談にのってくれる事務所もあります。
通常は相談が終わったら、その場で、現金などで支払います。
- 着手金
遺産分割の協議をまとめてもらったり、調停や審判など具体的な事例に関わったりすることを依頼したときに必要な費用です。
依頼をするときに現金や振込の方法で支払います。
20万円~30万円程度が相場です。
- 報酬金
依頼した案件が解決した時に支払います。
得られた経済的な利益に応じて計算されます。
- 実費や日当
相手との連絡に使用する郵便切手や裁判所に申し立てるときに納める印紙代などを清算する必要があります。
具体的なケースによって費用は変わってきます。
遺産分割審判のまとめ
仲が良かったのに遺産相続でもめることは避けたいことですが、中にはどうしても避けられなくて話し合いがまとまらないこともあります。
遺産分割の話し合いがまとまらないときは、どのような手続きをすればよいのか、どのくらい期間がかかるのかを整理しておきましょう。
長い間親族ともめることは心労もありますし、法律的なことで難しいこともあります。
そのようなときには、弁護士に頼ることも一つの解決策になります。
監修者情報
徳永 和喜(公認会計士)
高校卒業して就職後、一念発起して公認会計士試験合格。
2018年から株式会社better創業メンバー取締役としてbetter相続Webアプリケーション開発に従事。公認会計士/税理士とエンジニアを兼務しながら、相続税申告の案件にも携わる。
2022年10月、経営統合により辻・本郷ITコンサルティング株式会社の執行役員就任。better相続事業部長として、自分で相続税申告や相続登記を行う方へより良いサービスの提供を目指している。